標高影響計算機の仕組み
完走タイムは固定係数による概算です。登り100mで60秒加え、下り100mでまず30秒を引きます。この係数は本ツールの仮定で、ネイスミスの原則やMinettiの実験が検証したランニング式ではありません。
下りの判定には「累積下降÷コース全長」を使います。10%を超えると短縮幅が減り、15%を超えると加算へ切り替わりますが、個々の坂の勾配を測っているわけではありません。トレイルは正味の時間調整を1.15倍、ミックスは1.07倍にします。
坂ごとの比較にはGrade Adjusted Pace(GAP)を使ってください。累積値だけの計算から、必要なジェルや水の量は出せません。
結果表には km-effort も表示されます。ITRA がトレイルレースの難易度格付けに使う単位で、距離 1km を 1、累積上昇 100m ごとに 1 を加えて数えます。たとえば 45km・累積上昇 1500m なら 60 km-effort です(ITRA ランナー向け FAQ)。数えるのは上りだけで、完走タイムの予測ではなくレースの難易度格付けのための数値なので、下りも加味する等価フラット距離とは一致しません。
勾配ランニングの科学
Minettiら(2002)はトレッドミルで勾配別のエネルギーコストを測定しました。実験でランニングのコストが最小だったのは−20%勾配で、−10%は歩行の値です。実験室での代謝コストを示す結果であり、急な下りを勧めるものでも、屋外で安全に走れる速さを示すものでもありません。
標高が1m上がると、重力位置エネルギーは体重1kgあたり約9.8ジュール増えます。70kgのランナーが100m登る場合は68.6kJの機械的仕事です。代謝エネルギーや平地の距離への換算には別の仮定が必要で、この値だけでは決まりません。
下りで代謝コストが下がっても、筋肉の負担まで軽いとは限りません。Estonら(1995)は下りでの伸張性筋活動と筋損傷の関係をレビューしています。全ての下り走に共通する筋肉痛のピーク時刻や筋力低下率を示したものではありません。酸素コストと筋肉への負荷は分けて考えてください。
主要マラソンの 1km あたり獲得標高比較
これらの参考値を使って上の計算機の結果を解釈してください。1km あたりの獲得標高は、累積標高の絶対値よりも正直な難易度指標です——500m を 42km に分散させるのと、2 つのハートブレイクヒルに集中させるのでは体感が大きく違います。以下は findmymarathon のコース資料に基づく数値です:
- 東京マラソン 約 1.4 m/km(総獲得標高 約 60m)——ほぼフラット、日本最速のロードマラソンコースの一つ。
- 大阪マラソン 約 1 m/km——フラット、自己ベスト狙いに最適。
- ベルリン 約 1.7 m/km(約 73m)——獲得標高の少ない比較用コース。
- シカゴ 約 1.8 m/km(約 74m)——湖畔フラットループ、フラット PB アタックに理想的。
- ロンドン 約 3.0 m/km(約 127m)——ほぼフラット、テムズ川沿いに小さな起伏。
- ボストン 約 5.9 m/km 上昇、9.2 m/km 下降(上昇 248m / 下降 388m)——ネットダウンヒルだが、前半の膝破壊的な下りと後半のニュートンヒル群で多くの市民ランナーはフラットより遅いタイムに。
- NYC 約 7.0 m/km(上昇294m・下降292m、FindMyMarathon資料を2026年10月28日に確認)——5 つの橋、スタート直後のヴェラザノ橋の登りが厳しい。
- Big Sur 約 12-16 m/km(504-665m、公式 PDF で 665m / findmymarathon で 504m)——カリフォルニア沿岸の絶景コース。ロードマラソンでも屈指の獲得標高で、10-12 マイルの Hurricane Point が最難所。
獲得標高だけで個人のタイムロスは決まりません。坂の位置を確認し、似たコースでの練習と比べて目標を考えてください。
どこからが「起伏コース」か — 1km あたり獲得標高の分類
「このコースは起伏がある」の基準が人によってずれるのは、このページがロードから山岳までの幅広い分類を使っているためです。この表では、ワールドマラソンメジャーズはすべて下から 2 番目までの区分に収まります——ボストンは約5.9 m/km、NYCは約7.0 m/km で「ややうねり」どまり、ロードでは獲得標高が大きい部類の Big Sur(12-16 m/km)でも「うねり」区分の中ほどです。走った体感がきついのに分類が低く出るのは、この物差しが高山ウルトラまで測れるように作られているからです。
| 分類 | 1km あたり獲得標高 | 1km あたりのロス | フルマラソン換算 |
|---|---|---|---|
| ほぼフラット | 0-1.9 m | 1 秒未満 | 25 秒未満 |
| ややうねり | 1.9-9.5 m | 1-3 秒 | 約 0.5-2 分 |
| うねり | 9.5-28 m | 3-8.5 秒 | 約 2-6 分 |
| 起伏が大きい | 28-47 m | 8.5-14 秒 | 約 6-10 分 |
| 山岳 | 47 m 以上 | 14 秒以上 | 10 分以上 |
ロスの列は獲得標高と累積下降が等しい周回・往復コースを前提に、上の計算機と同じ係数(登り 100m あたり +60 秒、下り 100m あたり −30 秒)で算出しています。下りは登りで失った分の半分しか返してくれないので、スタート地点に戻ってくるコースでも必ず持ち出しになります——獲得標高 100m あたり約 30 秒。モデルが各区間の勾配を読まないため、坂の分布が違っても同じ計算値になります。実際の負荷まで同じという意味ではありません。ポイント・トゥ・ポイントのコースは登りと下りが等しくないため、上のフォームに両方の数字を入れて確認してください。
自分のレースを当てはめるには、公式コース情報の総獲得標高をレース距離で割って表を横に読みます。獲得標高 300m のフルマラソンなら 7.1 m/km、「ややうねり」でロード設定のモデル上の加算は約90秒。ただし注意——この物差しではロードコース同士の差はつきません。全部が下 2 区分に固まってしまうからです。ロード同士を比べるときは一つ上の表の 1km あたり獲得標高を使ってください。計算機の 1-10 難易度スコアも同じ読み方で、シティロードから高山ウルトラまでを 1 本の尺度に載せているため、ロードコースが 1-2 点になるのは正常でエラーではありません。
起伏のあるコースのペーシング戦略
平均ペースを区間目標にする前に、登りと下りの位置を確認します。長い登りや連続した下りをコース図で探し、走ったことのある近い地形と比べてください。
登りで全員のケイデンスを平地の85〜90%にそろえる根拠は、この計算にはありません。自分が制御できる足運びを似た坂で練習し、歩いた場合と走った場合の時間やきつさを比べておきましょう。
区間の勾配はGAP 計算機で確認できます。平均ペースを選んだ後の総時間はフィニッシュタイム計算機で換算してください。