標高が1,000m違うと、1kmあたり何秒変わるか
海面で練習している人が標高1,000mの大会に到着直後に出ると、同じ強度でも1kmあたり9〜14秒遅くなります(5kmで9秒、フルで14秒。下の表の基準ペースでの値)。この計算機は、その差を2地点の標高から出します。
海面で1km 5分00秒のハーフの強度で走れる人が菅平高原(1,263m)に着いた直後なら、同じ強度は5分18秒(1kmあたり18秒、6.0%遅い)。目安の範囲は5分12秒から5分23秒です。
逆向きは同じ幅では戻りません。菅平で3週間過ごして海面に下りると、テンポ走4分30秒は4分21秒(3.3%速い)。上がるときの6.0%のおよそ半分です。滞在中に回復した分が織り込まれているためで、これは本ツールのモデル上の計算です。
使うときに迷いやすいところ
- 出発地の初期値は「住んでいる」です。合宿で数週間だけ滞在した場所を出発地にするときは、詳細設定で変えてください。
- スタート地点が高いレースは別枠です。ゴールの街と標高が違うコースは、スタート地点の標高で登録しています(例:マウントチャールストンマラソンは2,316m)。
- 答えは幅のほうです。同じ標高でも落ち方は人によって大きく違います。
標高別・距離別のタイム差一覧
海面から各標高へ移動し、到着直後に同じ強度で走った場合の差です。カッコ内は基準ペース(5km 4分00秒、10km 4分30秒、ハーフ5分00秒、フル5分30秒)での1kmあたりの秒数です。
| 標高 | 5km | 10km | ハーフ | フル |
|---|---|---|---|---|
| 500 m | 1.0%(2秒) | 1.1%(3秒) | 1.2%(4秒) | 1.2%(4秒) |
| 1,000 m | 3.6%(9秒) | 4.1%(11秒) | 4.3%(13秒) | 4.3%(14秒) |
| 1,500 m | 6.2%(15秒) | 7.0%(19秒) | 7.4%(22秒) | 7.5%(25秒) |
| 2,000 m | 8.9%(21秒) | 10.0%(27秒) | 10.6%(32秒) | 10.6%(35秒) |
| 2,500 m | 11.5%(28秒) | 12.9%(35秒) | 13.7%(41秒) | 13.7%(45秒) |
| 3,000 m | 14.1%(34秒) | 15.9%(43秒) | 16.8%(50秒) | 16.8%(56秒) |
距離が長いほど差が広がるのは、短いほど酸素に頼らない力の割合が大きいからです。3週間以上滞在した場合は、表のおよそ61%まで小さくなります(本ツールの仮定)。
国内の練習地・大会会場と、海外の主な高地トレーニング地
標高は公式サイト・Wikipedia・標高データ(Copernicus DEM)のいずれかを出典としています。国内の合宿地と大会会場はほとんどが「低い標高」(500〜2,000m)に入り、この帯の順化の目安は3〜7日です(BJSM 2013)。
| 場所 | 標高 | 区分 | メモ |
|---|---|---|---|
| 湯の丸高原 | 1,750 m | 低い | 国内最高地点の全天候型400mトラックがあります |
| 飛騨御嶽高原 | 1,700 m | 低い | 1,200mから2,200mに広がる高地トレーニングエリア |
| 菅平高原 | 1,263 m | 低い | 夏合宿の定番。大学・実業団のチームが集まります |
| 蔵王坊平 | 1,000 m | 低い | JOC指定の高地トレーニング拠点。全天候トラックあり |
| 軽井沢 | 940 m | 低い | 軽井沢ハーフマラソンの開催地 |
| 富士河口湖 | 833 m | 低い | 河口湖の湖面標高。富士山麓の大会会場 |
| 妙高高原 | 727 m | 低い | 標高は低めで、涼しさを優先する夏合宿向き |
| イテン | 2,400 m | 中程度 | ケニアの「Home of Champions」。高地トレーニングセンターがあります |
| フラッグスタッフ | 2,106 m | 中程度 | HOKA NAZ Eliteと北アリゾナ大学の拠点 |
| 昆明(海埂トレーニング基地) | 1,892 m | 低い | 中国で最も歴史の長い高地合宿地のひとつ |
| サンモリッツ | 1,822 m | 低い | 1960年代から続くヨーロッパの定番。400mトラックと森のコース |
| ボルダー | 1,655 m | 低い | プロランナーが多く住む街。上部のMagnolia Roadは約2,600m |
練習のペースをどう合わせるか
5分以上のインターバルや閾値走は、テンポ走か5kmの行を目安にしてください。ジョグとロング走はペースではなく強度をそろえ、表示された遅いペースをそのまま受け入れます。ジャック・ダニエルズも自身のサイトで、標高1,524m(5,000フィート)ではインターバルと閾値走を1マイルあたり8〜10秒遅くし、レペティションは調整不要と述べています(Ask a Coach、2011年。研究ではなくコーチングの指針です)。
なぜ遅くなるのか、どこまで信用できるのか
標高が上がると酸素分圧が下がり、使える酸素が減ります。持久系アスリート8名を低圧室で測った研究では、最大酸素摂取量(1分間に使える酸素の最大量)が1,000mあたり6.3%直線的に下がりました(急性曝露、WehrlinとHallén 2006)。6分00秒/kmでフルを走る人なら、標高1,000mで1kmあたり約16秒に当たります。
落ちるのは供給側だけです。ランニングエコノミー(同じ速度で走るときの酸素コスト)は順化しても変わらないため(153名の統合解析、Lundbyほか 2007)、酸素が減った分だけ保てる速度が落ちます。「空気が薄いぶん抵抗が減って相殺される」は成り立たず、6分00秒/kmのランナーが標高2,100mで受け取る恩恵は0.12%、失う有酸素能力は9〜11%です。
数字の出どころと、当てはまらない場面
- 6.3%の出どころ:持久系アスリート8名を低圧室に入れ、300m・800m・1,300m・1,800m・2,300m・2,800m相当で走らせた研究です。低下は直線的で、個人差は1,000mあたり4.6〜7.5%でした(WehrlinとHallén 2006)。
- 空気抵抗:空気抵抗が走行エネルギーに占める割合は、マラソンの速度(毎秒5m)で2%、中距離(毎秒6m)で4%です(Davies 1980)。標高で空気が薄くなっても、返ってくるのはこの割合の一部だけです。
- 個人差:標高580m相当の低圧室で、トレーニングを積んだ自転車選手の最大酸素摂取量は平均6.8±1.5%下がりましたが、個人では+1.2%から−12.3%まで開きました(Goreほか 1996)。エリートランナー27名が2,100mで到着48時間後に走った3,000mは平均48.5±12.7秒遅く、酸素飽和度が下がりやすい群は54.0秒、下がりにくい群は38.9秒でした(Chapmanほか 2011)。
- 順化:順化しても最大酸素摂取量は元に戻りません(Fulcoほか 1998のレビュー、BärtschとSaltin 2008)。それでも走れるペースは改善していきます。本ツールが使う残存率(到着直後100%、1〜2週間78%、3週間以上61%、常住50%)は、標高2,340mでエリート自転車選手を3週間追った研究(Schulerほか 2007)から導いたモデル上の仮定で、研究がそのまま出した数字ではありません。
- 市民ランナー:低圧室で市民ランナー12名を測った研究では、914mで有意な低下はなく、1,219mから下がりました(SquiresとBuskirk 1982)。トレーニングを積んだ選手は580mから下がります(Goreほか 1996)。表示される数字は、市民ランナーにとって上限寄りです。
- 当てはまらない場面:3,000mを超える標高はモデルの検証範囲の外で、外挿した値です。暑さ、湿度、コースの起伏、獲得標高は計算に入っていません。フルマラソンは脱水と暑さの影響を含まないぶん、控えめな数字が出ます。
いつ現地に入るか
早く入れるなら早いほど有利です。到着当日がいちばん落ちるので、前泊できるなら前泊してください。「数時間前に着いたほうが有利」という説は支持されていません。
数日以上とれる場合の目安は、500〜2,000mで3〜7日、2,000〜3,000mで1〜2週間、3,000m超なら最低2週間です(BJSM 2013の合意文書)。泊まるのは大会と同じ標高にして、それより高い場所は避けてください。
到着時刻と滞在場所の根拠
- 標高1,700mで16歳前後の男子15名を調べた研究では、シャトルランの落ち込みが到着6時間後で37.4%、18時間後で17.7%、47時間後で14.2%と小さくなっていきました。論文の結論は「中程度の標高への移動は、競技前のできるだけ早い時期に行うべき」です(Westonほか 2001)。
- 2,500m相当の低酸素環境で自転車の20kmタイムトライアルを行った研究では、前夜から入った場合と2時間前に入った場合で差がありませんでした(Fossほか 2017、10名)。
- 大学生ランナー48名を4週間追った研究では、大会標高(1,780m)より300〜1,000m高い場所に住んだ群は、落ち込みを最小にするのに最大19日かかる可能性が示されました(Chapmanほか 2016)。
獲得標高(登り)とは別の話です
このページで扱う「標高」は空気の薄さ、つまり気圧高度です。標高1,000mなら、平坦な高原でも登りの多いコースでも酸素の薄さは同じように効きます。
登り下りでタイムが変わるのは筋肉と重力の話で、酸素とは別の要因です。本ツールは起伏をいっさい見ていないので、登坂の影響は獲得標高の影響計算機で計算し、両方が重なるコースでは別々に見積もって合わせてください。