ビーツジュースはマラソンに効く?量とタイミング、どこで買える
栄養&補給

ビーツジュースはマラソンに効く?量とタイミング、どこで買える

研究で使われた量は硝酸塩6mmol=372mgを3日以上。ただし80研究の統合解析では、鍛えたランナーと女性では効果が確認されていません。市販品の含有量差と入手先まで。

ポイント

  • 硝酸塩 6 mmol(372 mg)を1日あたり、3日以上。最後の1回はスタートの2〜3時間前。
  • 効果は「小さいが本物」です:80研究を統合した著者自身が「客観的に小さい」と評しています。
  • 製品間の含有量は約50倍違います:粉末は検査6製品とも非公表。
  • 殺菌系マウスウォッシュで経路が切れます:口の亜硝酸生成が90%、血漿の亜硝酸が25%減。
  • 研究の量は ADI の1.4〜1.9倍。ただしその ADI は食品添加物として設けられた数字。

「ビーツ ランニング」で検索すると出てくるのはイヤホンばかり。日本語の「ビーツ」がヘッドホンの Beats と同じカタカナだからです。野菜のほうは「ビーツ マラソン」か「ビートルート」で調べてください。

国際オリンピック委員会の2018年のコンセンサス声明は、硝酸塩を数少ない「良い証拠があるもの」の一つに挙げています。挙がるのはカフェイン、クレアチン、特定の緩衝剤、そして硝酸塩だけ。

まず、自分がどれに当てはまるか
  • 市民ランナーの男性(VO2max 65 mL/kg/分 未満):証拠はこちら側にあります。ただし「タイムが分単位で縮む」という話ではありません。同じ方法の試験では前半5 km が有意に速くなり、14人中10人がタイムを縮めた一方、ゴールタイムは集団として分かれませんでした。前半が少し楽になる、が正しい期待値です。
  • よく鍛えた人(VO2max 65 mL/kg/分 以上):期待しないでください。この層では効果が確認されていません。効いて見えるのは硝酸塩ではなくポリフェノールのほうなので、タルトチェリージュースのガイドへ。
  • 女性:支持する公表証拠がありません。「効かないと証明された」ではなく、まだ誰も十分に調べていない、という意味です。用量の目安も男性で確立されたものです。

レース週の手順

  1. 製品より先に量を決める。1日あたり最低 6 mmol(372 mg)。
  2. 3日以上続ける——アンブレラレビューの境界です。
  3. 最後の1回はスタートの2〜3時間前。
  4. 期間中は殺菌系マウスウォッシュをやめる。
  5. 本番前に、ポイント練習で1度試す。AIS の明記した助言で、IOC も遺伝・腸内細菌叢・普段の食事で個人差が大きいとしています。補給全体はマラソン補給食ガイドで。
  6. 回復目的を当てにしない。マラソン後を狙った試験では差が出ていません。
このページの内容
  1. レース週の手順
  2. この話は用量が全部です
  3. 効く人と、効かない人
  4. 根拠になった試験は、全員男性です
  5. VO2max が上がっても、10 km が速くなるとは限りません
  6. 日本ではどこで買えるか
  7. ラベルの読み方:中身は約50倍違う
  8. 30秒で全部を無駄にする方法
  9. 「硝酸塩=発色剤」という不安に答えます
  10. 起こりうること、相談すべき相手
  11. マラソン後のあの試験では、効きませんでした

この話は用量が全部です

ポイント:目安は硝酸塩 6 mmol(=372 mg)を1日あたり、3日以上続けて。硝酸塩は 1 mmol = 62 mg です。ミリグラムもミリモルも書かずに「ビーツジュースを1杯」とだけ書いてある助言は、プロトコルではありません。

6 mmol は下限で目標値ではなく、7 mmol 前後の試験はよく鍛えた選手で何も見つけられませんでした。

372 mg を食べ物で言うと

硝酸塩は硝酸塩です。ビーツがこの分野を独占しているのは含有量が一番だからではなく、実測した研究チームの言葉で「are readily juiced」(ジュースにしやすい)から。食べ物なら生のビーツで93〜198 g、中サイズ1〜2個。手に入りやすさならほうれん草で、74〜198 g と必要量もむしろ少なめです。

証拠の詳細:アンブレラレビューの効果量と著者自身の品質評価、生野菜6種の硝酸塩量と3つの制限

出どころは、20件の系統的レビュー・180件の原著研究・2,672人分を束ねたアンブレラレビュー(Poon ら、Sports Medicine、2025年)です。

疲労困憊までの時間が改善(SMD 0.33、95% CI 0.19-0.47)。同じレビューで有意だったのは、総走行距離(SMD 0.42)、筋持久力(SMD 0.48)、最大パワー(SMD 0.25)、最大パワー到達時間(SMD -0.76)。それ以外のパフォーマンス指標はいずれも有意差なし(all p > 0.05)でした。

結果と一緒に、著者自身の品質評価も読んでください。含まれたレビューの多くは、AMSTAR-2 という品質評価尺度で「低い」から「きわめて低い」の範囲だった、と書かれています。批判する側ではなく、レビューを書いた本人たちの評価です。

実際に効果を見つけた試験の用量:後述の市民ランナー2試験は 8.4 mmol/日 です。

2026年の野菜レビューははっきり書いています。よく食べられている野菜、とくに葉物や茎の野菜には、同等かそれ以上の硝酸塩が含まれている、と。

生野菜の硝酸塩量と、372〜496 mg に届く量
野菜(生・生重量)100 g あたりの硝酸塩用量に届く量
ビーツ250〜400 mg93〜198 g(中サイズ1〜2個)
ルッコラ300〜600 mg62〜165 g
ほうれん草250〜500 mg74〜198 g
レタス100〜400 mg93〜496 g
セロリ150〜250 mg149〜331 g
アブラナ科(キャベツ・ケール・ブロッコリー・カリフラワー)50〜250 mg149〜992 g

この表には制限が3つあります。数値は1本の総説が示した幅で、ほかの文献はビーツについてもっと低い値を出しています。生の状態・生重量にのみ当てはまり、加熱・保存・ジュース化はすべて数値を動かします。そして、水分量から逆算して粉末の含有量を出すことはできません。脱水でどれだけ失われるかのデータが公表されていないからです。

幅が広いのは計測が雑だからではなく、土壌の窒素と保存条件が本当に効くからです。同じ商品でもロットによって変わる理由も同じです。

アンブレラレビューが報告したのは、1日 6 mmol を3日より長く続けた条件で疲労困憊までの時間の改善がはっきりした、という点です。

飲むのはスタートの2〜3時間前

原著研究のプロトコルは、市民ランナーの2試験が2時間前、よく鍛えた選手の試験が2.5時間前。第三者の製品検査でも、血漿の亜硝酸がピークになるのは摂取の2〜3時間後です。1時間前ではまだ届きません。

多くのレースでは朝食と同時かその直後。起床からの逆算はマラソン当日の逆算ツール、何を食べるかはレース前食事プランナーで。

効く人と、効かない人

基準は80件の研究を統合した解析です。全体の効果量は著者自身が「objectively small」(客観的に小さい)と評するもので、見出しの数字より大事なのはサブグループです。女性のみの研究でも、よく鍛えた持久系アスリート(VO2max 65 mL/kg/分以上)でも、効果は確認されませんでした。

すでに速い人には、たぶん効きません

よく鍛えた男性10人(10 km のベストは 36 ± 2 分)が約 7 mmol を飲んだ試験では、血液は理論どおりに反応したのに、疲労困憊までの時間もタイムトライアルも差なし。「効果がない」という結果であって、「逆効果」ではありません。

証拠の詳細:3つのサブグループの完全な統計、この試験の全数値、高地で行われた条件がなぜ平地に持ち込めるか

全体の効果量は d = 0.174(95% CI 0.120-0.229、P<0.001)。

  • 女性のみを対象にした研究では効果が確認されず(n = 6、d = 0.116、95% CI -0.126 〜 0.358、P = 0.347)。
  • よく鍛えた持久系アスリート(VO2max 65 mL/kg/分以上)でも確認されず(n = 26、d = 0.021、95% CI -0.103 〜 0.144、P = 0.745)。

単一試験の内訳:よく鍛えた男性10人(VO2max 66 ± 7 mL/kg/分、10 km のベストは 36 ± 2 分)が、約 7 mmol を試験の2.5時間前に飲みました。血漿の亜硝酸は 61 から 473 nmol/L へ上がりました(P<0.001)。疲労困憊までの時間は差なし(P=0.5)、10 km のタイムトライアルも差なし(P=0.6)。出た差は11秒でしたが、研究者が事前に決めていた「意味のある最小の差」は51秒で、そこに届いていません。10人のうち「有益かもしれない」変化が出たのは3人だけでした。

この試験には注意点が1つと、その解除条件が1つあります。試験は模擬高地で行われ、結論文も「常圧低酸素下では」という限定で終わるので、単体では平地について何も言いません。ただし上の80研究の解析が「酸素濃度で効果は変わらない」と示していて、その 65 mL/kg/分 という境界がこの選手たちの 66 とちょうど重なります。2つを合わせれば、この結論は平地にも持ち込めます。

女性について、80研究の解析は「女性のみを対象にした研究では確認されなかった」(P = 0.347)。硝酸塩とポリフェノールを扱った118研究の解析は「女性では硝酸塩・ポリフェノールいずれの摂取でも効果は見られなかった」と書いています。

この解析は Senefeld ら、Medicine and Science in Sports and Exercise、2020年。はっきりした向上が見えた集団は、原文の表現で「日常的に運動している、若く健康な男性」に限られます。

根拠になった試験は、全員男性です

このページで引用しているビーツの原著試験は、すべて男性のみです(13人、14人、10人)。

女性のみの研究は6件と薄く、信頼区間もゼロを挟んで両側に伸びるので「何も起きない」証明ではありません。

VO2max が上がっても、10 km が速くなるとは限りません

同じグループが同じ年に出した2本のうち、生理指標を測ったほうは VO2max が改善し、10 km のタイムトライアルのほうはゴールタイムが分かれませんでした。検査値とレースは、別々の主張として扱ってください。

証拠の詳細:2本の試験の全数値

どちらも市民ランナーに 8.4 mmol/日 を3日間、最後の1回は試験の2時間前という同じ方法です。

生理指標を測ったほう(13人):VO2max 46.6 ± 6.4 対 45.1 ± 5.8 mL/kg/分(P=0.022)、VO2max 到達速度 14.5 ± 0.8 対 13.9 ± 1.0 km/h(P=0.024)、最高速度 15.5 ± 1.1 対 15.2 ± 1.2 km/h(P=0.038)。

10 km のタイムトライアル(14人):50.1 ± 5.3 分(ビーツ)対 51.0 ± 5.1 分(プラセボ)、P=0.391 で有意差なし。前半5 km は有意に速く(P=0.027)、14人中10人がタイムを縮めましたが、集団としてのゴールタイムは分かれませんでした。

日本ではどこで買えるか

研究で使われている水準のショット(BEET IT)には日本に正規の輸入元(THALGO JAPON)があり、70 mL のショットは個人輸入ではなく普通の通販で買えます。日本の小売価格は英国と米国の間——「海外の補助食品は日本で買うと高くつく」は、少なくともこの製品には当てはまりません。

証拠の詳細:実店舗で確認できたことと、確認できていないこと

実店舗側で確認できているのは、形態の話までです。成城石井はニュージーランド産ビーツ(加熱処理・真空パック)を扱っています。カルディには缶詰・瓶詰めの形があります。イオンやイトーヨーカドーは店舗によります。ただし、どの店に今日在庫があるかまでは確認していません。取扱いは店舗により異なります、というのが正直な限界です。

BEET IT の価格については、為替で動くので具体的な金額はここには書きません。生のビーツや水煮を使う手もあり、含有量から逆算すると 6〜8 mmol に相当するのは生重量で93〜198 g、中くらいのビーツで1〜2個です。

日本語で「ビーツジュース」と一緒に出てくるのは「コンビニ」「市販」「カルディ」「スーパー」「業務スーパー」「どこで売ってる」。最初に知りたいのは効果より入手経路のようです。

ラベルの読み方:同じ「ビーツジュース」でも中身は約50倍違う

製品どうしを横に並べて比べられる共通の単位が存在しません。2019年に24製品を実測した研究では約50倍の開きがあり、1回分で 5 mmol 以上を安定して満たしたのは24中5つだけでした。

実測で最も濃い製品と最も薄い製品では、同じ量を摂るのに必要な体積が 5.6倍 違います(6 mmol なら 160 mL 対 896 mL、8 mmol なら 213 mL 対 1.2 L 近く)。飲む行為ではなく、どの製品かが介入です。

買う前の3項目

  • 1回分のミリグラムかミリモルが書いてあるか。欧州市場18製品の2026年の分析では、27.8%が用量を書いていません。
  • その数字を 372 mg と比べる。同じ分析で61.1%は 300〜500 mg でした。
  • 代替の単位も推薦もマーケティングとして扱う。「新鮮なビーツの40倍」は用量に換算できず、外部機関の裏づけは0%でした。
証拠の詳細:形態別の必要回数の表、2025年の第二の検査、表示どおりの製品と確かめようがない製品
硝酸塩 372〜496 mg(6〜8 mmol)に届くまでの回数
形態1回分必要な回数
運動用ビーツショット70 mL1本
そのまま飲む混合飲料250〜355 mL1〜8本
市販ジュース(最も濃かったもの)体積で160〜213 mL
市販ジュース(最も薄かったもの)体積で896〜1,194 mL
ビーツ粉末4〜11 g2.3〜18.6回分
硝酸塩入りジェル1個3.7〜5.0個
生のビーツ生重量93〜198 g

各行の根拠:運動用ショットは表示 400 mg(6.45 mmol)、独立測定 6.41 ± 0.60 mmol。そのまま飲む混合飲料は実測 1.02〜6.67 mmol/本で、355 mL で 6.67 mmol という製品もありました。市販ジュースは 500 mL あたり最も濃いもので 18.77 ± 1.59 mmol、最も薄いもので 3.35 mmol。粉末は検査された6製品がいずれも硝酸塩量を非公表で、実測 0.43〜2.56 mmol/回。ジェルは表示 100 mg、レース中の追加用で主剤ではありません。生のビーツはある総説の「100 g あたり 250〜400 mg」という幅です。

2019年の検査で、ロット間のばらつきの範囲は2〜83%でした。5 mmol 以上を満たした5製品がどれかは論文に書かれていません(この 5 mmol は、この検査論文が「ほとんどの人で効果を出すのに最低限必要」として置いた線で、上の 6 mmol とほぼ同じ量級です)。実測値は2017年9月から2018年6月に1つの研究室が買った検体のもので、今日買った1本の話ではありません。そしてロット間の変動係数が最大83%に達したデータセットである以上、ここのどの数字も保証ではありません。

2025年に別の検査機関が行った調査も、形は同じでした。1回分あたり最大 495.7 mg から最小 4.3 mg まで、100倍以上の差。ジュース類は 8 fl oz(約237 mL)で 200〜300 mg 程度、濃縮ショットの1本は 500 mg 近く。同じ調査は、臨床試験で使われてきた量がおおむね1日 300〜600 mg だとも書いていて、これは372 mg という下限を挟む幅です。

原因は棚の左右で違います。ビーツ側の原因は原料の変動(硝酸塩の量は土壌の窒素・栽培・保存で動きます)で、酸っぱいさくらんぼの側では測定方法そのものが標準化されていないという別の問題が重なります。

2019年のデータの中には、表示どおりの製品があります。70 mL のショットで表示は 400 mg、独立測定は 6.41 ± 0.60 mmol(約 397 mg)。表示と実測が一致していて、そのまま1本で研究の量に届きます。そのまま飲む混合飲料にも、355 mL で 6.67 mmol と、ほぼ1本で足りるものがありました。

反対側は、詐称ではありません。だからこそ厄介です。粉末側では、検査された6製品のいずれも硝酸塩量をラベルに書いておらず、いずれも1回分で 5 mmol に届いていませんでした(実測 0.43〜2.56 mmol、最も薄いものは研究の量に届くのに14〜18.6回分)。書いていない以上、間違った数字というものが存在しません。問題は公表されていないため、自分がどれだけ摂取したかを検証できないことです。

2026年の欧州市場分析では、科学文献で確立された方法に一致していたのは38.9%、55.6%が有名人やインフルエンサーを使っており、科学研究に言及していたのは16.7%でした。

この記事の前提そのものにも、注意を1つ。硝酸塩は、今のところ製品どうしを数字で比べられる唯一の成分です。ただし、ビーツジュースの効果が硝酸塩だけによるものかは決着していません。ほかの植物成分も関わっているのではないかという仮説はありますが、比較研究の限界が大きく、確かな結論は出せない、というのが現状です。

2019年の検査では、24製品・45ロットを高速液体クロマトグラフィーで測定し、同じ製品でもロット間のばらつきは変動係数で平均 30% ± 26% でした。

買う前の項目に使った2026年の分析では、科学文献で確立された方法に一致していたのは38.9%、55.6%が有名人やインフルエンサーを使い、科学研究に言及していたのは16.7%でした。「新鮮なビーツの40倍」のような表現が用量に換算できないのは、ビーツ1個の硝酸塩量に基準がないからです。

30秒で全部を無駄にする方法

硝酸塩はそれ自体では働きません。舌の奥にいる細菌が亜硝酸に変える工程を、体は自前で効率よくできないからです。細菌を消せば、鎖はそこで切れます。

殺菌成分(クロルヘキシジン)入りのマウスウォッシュは、口の中の亜硝酸生成を90%、血漿の亜硝酸を25%減らします。測ったのは血圧と亜硝酸で走りのタイムではないため、レースタイムへの影響は誰も出していません。ローディング中とレース当日の朝は使わない、それだけ。

証拠の詳細:7日間の試験の全数値と、「口の中の細菌に頼って大丈夫なのか」への現時点の答え

7日間の研究では、殺菌成分入りのマウスウォッシュによって、口の中の亜硝酸生成が90%減り(p<0.001)、血漿の亜硝酸が25%減り(p=0.001)、収縮期・拡張期の血圧が 2〜3.5 mmHg 上がりました。マウスウォッシュがレースタイムをどれだけ落とすかを調べた研究はありません。

ここで逆向きの心配が出てきます。硝酸塩を還元する細菌に頼るのは、口の中にとって良くないのではないか、と。今のところ見つかっている証拠は、その心配とは逆の方向を向いています。健康な人の唾液から作ったバイオフィルムに硝酸塩を加えると、口腔の健康と関連する属(Neisseria が3.1倍、Rothia が2.9倍)が増え、むし歯・口臭・歯周病と関連する属が減り、乳酸の産生が下がって pH が上がりました。人でも同じ方向の変化が確認されています(18人、1日 12 mmol を10日間)。

ただし限定は厳しめです。中心的な証拠は試験管内のバイオフィルムで、人の研究は最長10日、しかも測っているのは菌の構成比であって、むし歯や歯周病の発症率ではありません。長期の口腔の臨床結果は、データがゼロです。だから「ビーツジュースでむし歯を防げる」とは言えません。なお、亜硝酸化合物についての懸念が向けられているのは胃の中で起こる反応であって、口の中ではありません。

「硝酸塩=発色剤」という不安に、正面から答えます

日本語で硝酸塩を調べると、運動の話より先にハムやソーセージの発色剤が出てきます。Q&Aサイトにも「ビーツは身体にいいと言われますが食べ過ぎると胃がんになるとも書いてあります」という質問が立っています(Yahoo!知恵袋 q10297940625)。偶然ではなく、硝酸塩に一日摂取許容量(ADI)が設けられたのが「食品添加物・汚染物質としての硝酸塩」という文脈だからです。

事実、文脈、未解決

事実。ADI は体重1 kg あたり1日 3.7 mg、70 kg なら 259 mg。この記事の量(1日 372〜496 mg)はその1.4〜1.9倍です。

文脈。この ADI は野菜由来の硝酸塩や運動での使用を想定した数字ではなく、設定した委員会は利益を評価していないと明記。EFSA は、全摂取源を合わせると平均的な摂取でも全年齢層で ADI を超えると書いています。

未解決。正しい結論は「安全」でも「危険」でもなく、短期的な効果の証拠のほうが長期的な安全性の証拠よりずっと強い。使い方が「レース前の数日間」に限られるのはそのためです。

証拠の詳細:体重別の ADI 表、数字の導出、単位のずれ、そして食い違う2つの公的な摂取推定
体重別の硝酸塩 ADI(1日 3.7 mg/kg、硝酸イオン換算)
体重1日の ADI
50 kg185 mg
60 kg222 mg
70 kg259 mg
80 kg296 mg
90 kg333 mg

逆から言うと、6 mmol(372 mg)が ADI とちょうど同じになるのは体重が約 100 kg のとき、8 mmol(496 mg)なら約 134 kg のときです。しかもこの 1.4〜1.9倍 は、プロトコルの帯域で計算した数字です。この記事で引用している市民ランナーの2試験が実際に使ったのは 8.4 mmol、つまり約 521 mg で、70 kg の成人なら ADI の約2.0倍にあたります。帯域の下限だけを見ると、実際に行われた試験より軽く見えます。日常の食事と比べると、研究の量はおよそ3〜8倍です(分母はオーストラリアスポーツ研究所(AIS)が示す成人の平均摂取推定、1日 60〜120 mg)。

ADI も研究の量も、どちらも硝酸イオンとして計算した数字なので、そのまま割り算できます。資料によっては「1 kg あたり 5 mg」と書かれていますが、これは別の限度ではなく、同じ限度を硝酸ナトリウムとして表したものです(硝酸ナトリウムと硝酸イオンの分子量の比が約1.37)。基準をそろえずに混ぜると、数字が約37%ずれます。

出発点は動物実験で得られた無作用量(1 kg あたり1日 370 mg、硝酸イオン換算)で、そこに100倍の安全係数をかけています。委員会の原文は「Data on the putative health benefits of nitrate were not assessed, as this is not a safety issue and is therefore not within the purview」。EFSA は2017年の再評価で、唾液の中で硝酸塩が亜硝酸塩に変わる割合のばらつきが大きいため「it was not possible to derive a single value of the ADI from the available data」としながら、同時に「currently there was insufficient evidence to withdraw this ADI」——撤回するだけの根拠もない、と結んでいます。支持もしていないし、否定もしていません。

ただし、この2つの公的な数字は互いに食い違っています。上で分母に使った AIS の推定(日常の摂取が1日 60〜120 mg)は、70 kg の成人の ADI である 259 mg より低い水準です。一方で EFSA は、平均的な摂取でも ADI を超えると書いています。どちらも公的な一次資料で、どちらが正しいかを判定する材料をこちらは持っていません。だから両方をそのまま並べます。この2つを、互いに裏づけ合う数字として読まないでください。

ビーツジュースの利益とリスクを扱った系統的レビューの結論は、負の側面についてのデータと文献が少なすぎて、バランスの取れたリスク評価を行うにはまだ足りない、というものです。

硝酸塩の話が発色剤から始まるこの順番は日本特有で、英語圏の運動栄養の文脈とは逆です。

起こりうること、そして相談すべき相手

尿や便がピンクから赤に変わることがあります。AIS はこれを「This is a harmless side-effect」——無害な副作用である、と明記。ただし赤い尿はビーツ以外の原因でも起こるので、食べていないのに出た、やめても続くなら医師の判断が要ります。

医師に相談する範囲

  • 血圧が低め、または降圧薬。降圧作用は確認済みですが併用時の試験がありません
  • 硝酸エステル系の薬や ED 治療薬(PDE-5 阻害薬)。野菜由来の硝酸塩は添付文書が名指しする薬とは別の分類ですが、併用した研究がありません
  • 慢性腎臓病、透析。唯一の一次データは8人への単回投与、44時間の観察です。
  • 結石の既往がある。ビーツと結石リスクを直接調べた研究は見つかりませんでした。「研究がない」を「だから安全」と読み替えないでください。
  • 粉末の「塩」には手を出さない。亜硝酸塩(nitrite)の塩を誤って使えばメトヘモグロビン血症を起こしうる、と AIS が明記。食品の形で摂るのが一番単純。
証拠の詳細:赤い尿の測定値、胃腸の唯一の定量データ、降圧試験と透析患者のデータ

赤くなるのは一部の人です。100人を対象にした測定では、肉眼で分かる赤い尿が出たのは4人でした。文献にはもっと高い比率も載っていますが、それは前の文献の孫引きで、実測値ではありません。鉄不足や吸収不良のある人では多いとされています。その測定の分布は偏ってはいましたが、はっきりした二峰性はありませんでした。つまり「この体質があるかないか」というオンとオフの話ではないので、1回出た・出なかったで自分を分類する必要はありません。原著論文も、この現象は肝臓での代謝や腎臓からの排泄が不足して起こるものではない、と明記しています。臨床の参考書でも、ビーツによる赤い尿は「赤い尿の鑑別項目」として載っています。

胃腸の頻度について、公的文書も「sometimes」としか書いていません。数字のある研究が1つだけありますが、限定が肝心です。半プロのサッカー選手16人の交差試験で胃腸不快感のスコアが有意に高かったのは、ビーツジュースとカフェインを一緒に摂った条件とプラセボの比較であって(2.4 ± 3.6 a.u.、p<0.05)、ビーツジュース単独ではありません。レース前にカフェインも使う人にとっては、この組み合わせこそ練習で試しておく価値があります。

降圧作用の内訳:血圧が正常な男性18人で、100 g / 250 g / 500 g とほぼ量に応じた形で、24時間にわたり収縮期血圧 P<0.01、拡張期血圧 P<0.001 の低下が確認されています。

透析のデータ:血液透析を受けている8人と健康な7人に 70 mL・硝酸塩 400 mg を1回だけ飲んでもらった研究で、血漿硝酸塩の曲線下面積と最高濃度は透析患者のほうが有意に高く、一方で血圧と血清カリウムは変化せず、有害事象の報告もありませんでした。

胃腸について AIS が書いているのは、ビーツジュースはとくに濃縮された形や多い量では軽い胃腸の不快感を起こすことがある、という一文です。色素が残るかどうかは肝臓や腎臓の処理能力ではなく、胃酸の強さと胃が空になる速さでほぼ決まります。なお日本語で「ビーツ 副作用」を調べるとシュウ酸と腎結石の話が出てきますが、そこは上のとおり答えを持っていません。

日本語で「ビーツ 副作用」を調べるとシュウ酸と腎結石の話が出てきますが、直接調べた研究は見つかっていません。「研究が見つからない」は、安全な側にも危険な側にも証拠がない状態です。吸入酸素濃度(低酸素か常酸素か)によって効果が変わらない点は、80研究の解析が示しています。普段の食事に落とし込む話はランナーの食事管理ガイドにまとめています。

薬のほうの原文:添付文書が禁忌としているのは「organic nitrates / organic nitrites」という薬のグループで、野菜由来の硝酸塩は無機の硝酸イオン、薬理学的には別の分類です。降圧薬との併用で効果が重なる可能性があるというのは仕組みからの推論であって、確かめられた事実ではありません。AIS はまた、硝酸塩の塩の粉末(食品としてのビーツ粉末とは別物です)をサプリとして使うと用量を読み違えるリスクが大きい、とも明記しています。

マラソン後のあの試験では、効きませんでした

マラソンを走った34人がレース後の3日間ビーツジュースか同カロリーのプラセボを飲み、測った指標はすべて群間差なしでした。結論文も素っ気なく、マラソンのあと、ビーツジュースは炎症を弱めることも、筋損傷を減らすこともなかった、と。

回復側の証拠は別の物質にあります。ポリフェノールの経路は、硝酸塩が効かなくなる「よく鍛えた選手」で効いて見える——比較はタルトチェリージュースのガイドへ。

証拠の詳細:マラソン後の試験の全指標と、そこから言えないこと

反動ジャンプも最大随意収縮もレース後に落ちましたが、群間差はありません(P>0.05)。筋肉痛は差なし(P=0.694)、インターロイキン-6 は交互作用なし(P=0.213)、白血球・クレアチンキナーゼ・AST・hs-CRP もすべて群間差なしでした。

ただし「ビーツと回復は無関係」とまでは言えません。別の総説は、ビーツジュースに回復面での上乗せがある可能性を仮説として挙げています(結論は出ていません)。確実に言えるのは、マラソン後の3日間という具体的な場面では差が出なかった、ということです。

参考文献

  1. Poon, E.T., Iu, J.C., Sum, W.M., et al. (2025). Dietary Nitrate Supplementation and Exercise Performance: An Umbrella Review of 20 Published Systematic Reviews with Meta-analyses. Sports Medicine.
  2. Senefeld, J.W., Wiggins, C.C., Regimbal, R.J., et al. (2020). Ergogenic Effect of Nitrate Supplementation: A Systematic Review and Meta-analysis. Medicine & Science in Sports & Exercise.
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よくある質問

ビーツジュースはマラソン前にどれくらい飲めばいいですか?

目安は硝酸塩で1日 6 mmol(372 mg)以上を、3日以上続けて、最後の1回をスタートの2〜3時間前です。製品でいうと、400 mg と表示された 70 mL の運動用ショットなら1本。生のビーツなら93〜198 g(中サイズ1〜2個)。市販ジュースは製品差が大きく、実測で最も濃いものなら約 160 mL、最も薄いものは 1.2 L 近く必要でした。飲んだ量(mL)ではなく、ミリグラムが用量です。

ビーツジュースを飲むのは、レースの何時間前がいいですか?

スタートの2〜3時間前です。原著研究のプロトコルは運動の2時間前と2.5時間前で、第三者の検査でも血漿の亜硝酸がピークになるのは摂取の2〜3時間後と報告されています。摂取から1時間の時点では、まだピークに達していません。多くのレースでは、朝食と同時かその直後に飲む形になります。

女性ランナーにも効果はありますか?

公表されている証拠は、効果を期待できる根拠になっていません。このページで引用したビーツの原著試験はすべて男性のみで、2つの独立したメタ解析が女性を対象に効果を探して見つけていません(80研究の解析では「女性のみを対象にした研究では確認されなかった」、P = 0.347。118研究の解析では「女性では硝酸塩・ポリフェノールいずれの摂取でも効果は見られなかった」)。女性のみの研究は6件と薄いので、これは「効果がないことの証明」ではなく「根拠がまだない」状態です。ただし標準的な用量の指針は、女性で検証されていません。

粉末(パウダー)とジュース、どちらを選べばいいですか?

研究の量に届きやすいのは運動用ショットです。実測データでは、研究の量(6〜8 mmol)に届くのに運動用ショットは多くの場合1本、そのまま飲む混合飲料は1〜8本、粉末は2.3〜18.6回分必要でした。粉末が不利なのは、検査された6製品のいずれも硝酸塩量をラベルに書いておらず、いずれも1回分で 5 mmol に届いていなかったためです。ラベルにミリグラム表示がある製品を選ぶ、というのがそのまま選び方になります。

生のビーツやほうれん草で代用できますか?

できます。ある総説によると生のビーツは生重量 100 g あたり 250〜400 mg の硝酸塩を含むので、93〜198 g(中サイズ1〜2個)で用量に届きます。しかもビーツである必要すらありません。同じ総説はほうれん草を 250〜500 mg、ルッコラを 300〜600 mg とし、よく食べられている野菜には同等かそれ以上の硝酸塩が含まれている、と書いています。ビーツが研究で使われるのは、含有量が一番だからではなくジュースにしやすいからです。ただしこの幅は生・生重量のみに当てはまり、加熱や粉末には使えません。

ビーツジュースに副作用はありますか?硝酸塩を摂って大丈夫ですか?

まず副作用から。尿や便が一時的にピンクから赤に変わることがありますが、AIS は原文で「This is a harmless side-effect」と書いています。起こるのは一部の人で、100人を対象にした測定では肉眼で分かる赤い尿が出たのは4人でした。ただし赤い尿は血尿など別の原因でも起こるので、ビーツを食べていないのに出た場合や、やめても続く場合は医師に判断してもらってください。もう一つは軽い胃腸の不快感で、AIS は濃縮形態や多い量で起こることがあるとし、レース前に使うならまず練習で試すよう助言しています

硝酸塩そのものの安全性は、「安全」とも「危険」とも言い切れない、が正確な答えです。事実として、この記事の量(1日 372〜496 mg)は 70 kg の成人の ADI(1日 259 mg)の1.4〜1.9倍にあたります(本文で引用した試験が実際に使ったのは 8.4 mmol = 約 521 mg で、その場合は約2.0倍)。ただしこの ADI は食品添加物・汚染物質としての硝酸塩に設けられた数字で、設定した委員会(JECFA)は健康上の利益は職権範囲外なので評価していないと明記しています。しかも EFSA は、すべての摂取源を合わせれば平均的な摂取でも全年齢層で ADI を超えると書いています。超えているのはビーツジュースを飲む人だけではない、ということです。未解決の部分もはっきりしていて、AIS の原文は「長期使用はまだ十分に研究されていない」、専門の系統的レビューの結論は「負の側面のデータが少なすぎてバランスの取れたリスク評価ができない」。だから正しい言い方は「短期の効果の証拠のほうが、長期の安全性の証拠よりずっと強い」になります。持病や服薬がある場合は医師に相談してください。

「ビーツ ランニング」で検索してもイヤホンばかり出てくるのはなぜですか?

日本語の「ビーツ」が、ヘッドホンの Beats とまったく同じカタカナだからです。実際に測ると「ビーツ ランニング」の検索候補は丸ごとイヤホン関連で埋まっていて、野菜の情報にはたどり着けません。言い換えれば解決します。運動の文脈で候補が汚染されていない、ほぼ唯一の入り口が「ビーツ マラソン」です。野菜そのものを調べるなら「ビートルート」、製品を探すなら「ビーツジュース」「ビーツ パウダー」を使ってください。なお日本では、ビーツは「ボルシチに入っている赤い野菜」として知られていて、運動サプリメントという文脈自体が薄いため、日本語の検索結果は食材やレシピの側に寄ります。単語を替えるだけで、出てくる世界が入れ替わります。

ビーツジュースはスーパーやカルディ、コンビニで買えますか?

形態としては流通しています。成城石井はニュージーランド産ビーツ(加熱処理・真空パック)を扱い、カルディには缶詰・瓶詰めの形があります。イオンやイトーヨーカドーは店舗によります。ただし、どの店に今日在庫があるかは確認できていないため、取扱いは店舗により異なる、というのが正直なところです。確実なのは通販側で、研究で使われている水準のショットのブランド(BEET IT)には日本に正規の輸入元があり、個人輸入ではなく普通の通販で買えます。日本での1本あたりの小売価格も、英国の価格と米国の価格の間に収まります。「海外の補助食品は日本だと高くつく」という前提は、少なくともこの製品には当てはまりません。