ヤッソ800とは:フルの目標タイムを800mの分秒に読み替える練習
ルールは一つだけです。フルマラソンの目標「◯時間◯分」を、800m 1本の「◯分◯秒」に読み替えて10本走る。サブ3.5(3時間30分)なら、800mを3分30秒(トラック1周400mは1分45秒)で走り、間に3分30秒のジョグを挟んで10本です。
もとは、米Runner's World誌でレース関連の仕事をしていたバート・ヤッソ(Bart Yasso)が約15年続けていた自分の練習です。同誌の編集者アンビー・バーフット(Amby Burfoot)が1990年代に記事で紹介し、「Yasso 800s」と名付けました。記事の中でヤッソは「800mを2分50秒まで上げられれば、2時間50分で走れる状態」と話しています。
バーフットの原記事にある元のメニュー:
- 本番の2か月ほど前から、週1回
- 1週目は4本。以降、毎週1本ずつ増やして10本まで(7週間)
- 800mの間は、その800mにかかったのと同じ時間だけジョグ
- 最後のヤッソ800は、レースの10日以上前(できれば14〜17日前)に終える
なぜ当たる?なぜ楽観的に外れる?
結論から言うと、ヤッソ800を走れるのは「その目標に必要なスピードがある」という証拠で、「42kmもつ持久力がある」証拠ではありません。だから予測は、たいてい楽観側に外れます。
中身は「5kmレースペース」の練習
800mを目標の分秒で走ると、速度はフルの目標ペースの1.138倍(48÷42.195)になります。どの目標でもこの比率は同じです。サブ3ならフルのペースはキロ4分16秒、ヤッソはキロ3分45秒で、1kmあたり31秒速い計算です。
ダニエルズのVDOT(レース結果から今の走力を一つの数字にしたもの)の公式で計算すると、このペースは同じ目標の走力を持つ人の5kmレースペースとほぼ一致します。サブ3なら5km換算がキロ3分46秒に対してヤッソ3分45秒、サブ4なら5分03秒に対して5分00秒です(RunDidaがダニエルズの公式で計算した値)。つまり10本こなせるのは、「5kmの走力はその目標に足りている」という意味です。
持久力は測っていない
バーフットの原記事自体が、残りの日は通常のマラソン練習をし、週末の距離走に特に気を配るよう書いています。ヤッソ本人も後年、この対応を「coincidence, correlation(偶然、相関)」と表現しました。
ヤッソ800そのものを検証した研究は、今のところ見つかっていません。バーフットの「約100人に話を聞いた」も聞き取りで、誤差のデータはありません。近い構図のデータは次の2つです。
- Vickers & Vertosick 2016(2,303人):短い距離の記録からフルを予測するリーゲル式は、半数のランナーでフルのタイムを少なくとも10分速く見積もった。ヤッソではなく別の予測式ですが、「スピードからフルを外挿すると楽観的になる」点は同じです。
- Tanda & Knechtle 2013(126人):フルのタイムは、練習の平均ペースに加えて週間走行距離にも左右された。
「ヤッソ800は閾値くらいの強度」は本当?
Runner's Worldの現在の記事は、強度を閾値ペース(テンポ走で使う、きついけれど長く保てるペース)くらいで、5kmレースの全力感ではないと説明しています。ダニエルズの公式で計算すると、数字は合いません(RunDida計算)。
- 2時間40分:ヤッソ キロ3分20秒 / 閾値 3分36秒
- 3時間:ヤッソ キロ3分45秒 / 閾値 4分01秒
- 5時間:ヤッソ キロ6分15秒 / 閾値 6分38秒
どの目標でも閾値ペースよりキロ16〜27秒速く、最大酸素摂取量が出るペース(Iペースの上限)よりはやや遅い位置です。米国のコーチ Mario Fraioli も、ダニエルズのVDOT計算機で確かめると実質的に5kmペースくらいになると書いています。
ヤッソ800を効く練習にする5つのポイント
- 4本から、週1本ずつ。週1回・4本から始めて7週で10本へ。いきなり10本は避けます。最後の1回はレースの10日以上前、できれば14〜17日前。
- つなぎは3通りから選ぶ。原版は800mと同じ時間のジョグ。日本では「400mジョグを同じタイムでつなぐ」形が一般的で、ヤッソ本人も400mジョグでした。つなぎを1分前後に縮める形(知恵袋 q13235642693 に200mジョグの例)は、フルの負荷に近づけた変形で、原版の目安とは分けて考えます。
- 全本数を同じタイムで。最後だけ上げるより、1本目から10本目までそろえた方が意味があります。後半に大きく落ちるなら目標が高すぎるサインなので、目標を下げるか本数を減らします。
- サブ4より遅い目標は、本数を控えめに。ヤッソのペースが同じ走力の5kmレースペースより速くなります(5時間でキロ7秒、6時間で13秒)。4〜6本から始め、5kmレースペースを上限にしましょう。
- 10本できても、距離走と走行距離は別に積む。フルの結果を左右するのは持久力です。土台づくりは有酸素ベースの作り方、目標の妥当性はマラソン目標タイムの決め方で確認できます。
メニューが決まったら、インターバルタイマーに800mとつなぎの時間を入れておくと、トラックで時計を見続けずに済みます。