クレアチンはランニングに効く?体重増とローディングの判断
十種競技の大学生10名の研究で、筋肉のホスホクレアチンは約20%増。一方でVO2maxも乳酸も変わらず、体重は+1.5kg。ランナーがローディングを飛ばす理由まで。
ポイント
- 「効く」でも「効かない」でもありません:国内の大学生選手10名の研究で、筋肉のホスホクレアチンは約20%増えたのに、VO2maxも血中乳酸も回復速度も動きませんでした。
- ランナーにはローディングを飛ばす理由があります:1日20gを6日でも、1日3gを28日でも、到達点は同じ約20%。飛ばせば最も体重が増えるフェーズを丸ごと回避できます。
- ローディングをすれば約1〜1.5kg増えます(8週間・十種競技選手の研究で、大半は筋肉内の水分)。ただし体組成計の体脂肪率も一緒に上がります(研究では9.5→10.6%)。先に知っておくほうが混乱しません。
- 体重1kg増のタイム代償は、4時間の完走で約2.4分と推定。直接測った研究はゼロで、おもりを背負って走った研究からの推定です。反対側にラストスパートの利得があります。
- 健康な人では、血清クレアチニンだけがわずかに上がります(+0.13 mg/dL)。eGFRは変わりません。健康診断の前に、飲んでいることを医師へ。
「クレアチンって、筋トレしていない人が飲んでも大丈夫ですか。毎日ランニングしている程度です」——日本語でクレアチンとランニングを一緒に調べる人の入口は、ほぼこの形をしています。走るためにクレアチンを探している人より、筋トレのために飲んでいる(あるいは飲もうとしている)人が、走る側への影響を心配しているケースのほうが多いのです。
先に答えを言うと、「効く」でも「効かない」でもありません。国内の大学生選手を対象にした研究が、その第三の答えをはっきり出しています。
走る人がやることは、4つだけです
- ローディングはしない。1日3〜5gを毎日続けます。到達点は1日20gを6日間と同じで、いちばん体重が増えるフェーズを回避できます。
- レース直前に始めない。1日3gだと約20%に届くまで28日かかります。増えた体重で走る練習期間も要るので、逆算すると「1ヶ月以上前に始めるか、今回は見送るか」の二択です。
- 体重が約1〜1.5kg増える前提で計画する。主に水分です。体組成計の体脂肪率も一緒に上がりますが、それも含めて想定内にしておきます。
- 有酸素の底上げは期待しない。期待していいのは、インターバルの後半とラストスパートの側です。
このページの内容
国内の大学生選手10名の研究が出した「第三の答え」
この分野で日本語で読める一次データは、デサントスポーツ科学 Vol.20 に載った研究です(高橋英幸ほか、国立スポーツ科学センター・筑波大学)。大学陸上競技部の十種競技男子10名を、クレアチン群5名とプラセボ群5名に分けた二重盲検。8週間のうち最初の6日は1日20g、続く7週間は1日4gという設計です。
この研究を引用している日本語記事の多くは、論文の「まとめ」の部分を要約しています。以下は、表そのものの数字です。
| 指標 | 摂取前 → 摂取後 | 判定 |
|---|---|---|
| 大腿四頭筋のホスホクレアチン | 24.7 → 29.5 mmol/kg(湿重量あたり) | 約20%増(P<0.01) |
| 膝伸展の筋力(毎秒60度) | 237 → 257 Nm | 増加(P<0.05) |
| 体重 | 70.2 → 71.7 kg | +1.5 kg(P<0.05) |
| 体脂肪率(インピーダンス法) | 9.5 → 10.6 % | +1.1%(P<0.05) |
| VO2max(トレッドミル) | — | 両群とも変化なし |
| 運動5分後の血中乳酸 | 9.56 → 9.83 mmol/L | 有意差なし |
| 運動後のホスホクレアチン再合成 | — | 両群とも変化なし |
論文の英文要旨はこう結んでいます——長期のクレアチン摂取は、全身の有酸素能力も、筋の局所的な有酸素能力も高めない。ところが同じ研究の別の表では、30回連続の全力膝伸展のうち後半(11〜20回目、21〜30回目)でトルクが有意に上がっています。「効かない」でも「効く」でもなく、どこが動いてどこが動かないかが分かれた、というのが正確な読み方です。
ただし、これは十種競技の選手10名での結果です。論文の討論部自身が、マラソン練習のような長時間続く訓練での影響は分からないと書いています。
証拠の詳細:この研究の設計、被験者の限界、利益相反、そして発表年をなぜ書かないか
プロトコルの内訳です。8週間は、ローディング期6日(1回5gを1日4回=20g/日)と、維持期7週間(1回2gを1日2回=4g/日)に分かれます。プラセボ群は同量のグルコースポリマーを摂取しました。二重盲検です。
この結果を自分に当てはめる時の限界は、3つあります。
- 被験者は市民ランナーではありません。平均VO2max 59 mL/kg/分の鍛錬者で、十種競技の選手です。
- マラソン的な練習では検証されていません。訓練内容はインターバル中心で、討論部は「マラソントレーニングのような、より長時間継続する訓練での影響は不明」と自ら書いています。
- 利益相反があります。供試品はイムノ・バイオ・ジャパン社製で、論文には同社関係者への謝辞があります。
発表年について。この研究はデサントスポーツ科学 Vol.20 掲載ですが、手元のPDFのメタデータにある日付はスキャン日であって発表年ではありません。年を確定できていないため、ここでは巻数だけを表記しています。
証拠の詳細:表に載せなかった数値——プラセボ群と、有酸素側の生データ
プラセボ群は、体重・体脂肪率・ホスホクレアチンのいずれも動いていません。体重 75.3 → 75.4 kg、体脂肪率 11.2 → 11.0 %、ホスホクレアチン 25.2 → 24.9 mmol/kg。クレアチン群のホスホクレアチン増加は、プラセボ群と比べてもP<0.01でした。
有酸素側の生データはこうです。運動後のホスホクレアチン再合成の時定数は、プラセボ群 35.5 → 37.6 秒、クレアチン群 40.1 → 45.6 秒。数字だけ見るとクレアチン群が遅くなったように見えますが、論文は明らかな差異はなしとしています。運動終了5分後の血中乳酸も、プラセボ群 8.52 → 8.75、クレアチン群 9.56 → 9.83 mmol/L で変化なしでした。
高強度側では、運動中のホスホクレアチン濃度と細胞内pHが、摂取前より高い値に保たれていました(P<0.05)。等速性筋力は毎秒60度の条件で 237 → 257 Nm(P<0.05)です。
そもそも効かない人もいます
11人にクレアチンを飲ませて筋肉の中を測った研究では、3人はほとんど反応しませんでした。反応が大きかったのは、もともとの貯蔵量が低かった人です。裏返すと、もともと肉や魚をよく食べていて貯蔵が満タンに近い人ほど、上乗せの余地は小さいということになります。普段の食事側はランナーの食事管理ガイドにまとめています。
証拠の詳細:反応しなかった3人の内訳と、ベジタリアンのベースライン値
11人の内訳は、はっきり反応した人が3人、中間が5人、ほとんど反応しなかった人が3人でした。筋肉の総クレアチンとホスホクレアチンの変化量で、それぞれ 29.5/14.9/5.1 mmol/kg(乾燥重量あたり)と3段階に分かれています。よく反応した人の特徴は、もともとの貯蔵量が最も低く、速筋線維(II型)の比率が最も高いことでした。なお11人中3人という比率を人口全体の割合に換算することはできません。
食事との関係を直接測ったのは別の研究です。ベジタリアン18人と非ベジタリアン24人の筋生検で、摂取前の筋肉クレアチン濃度は 117 対 130 mmol/kg(乾燥重量あたり、P<0.05)——ベジタリアン側が約10%低い値でした。論文は、もともと筋内クレアチンが低い被験者(ベジタリアン)のほうが補給によく反応する、と書いています。変化量は摂取前の値と有意に相関していました。
増えるのは何キロで、それは水か脂肪か
約1〜1.5kg、主に水です。ただし「主に水」の一言で終わらせると、体組成計に乗った時に必ず混乱します。
数字の出どころを見ておきます。1日21.6gを7日間飲んだ12人の研究では、7日目の体重増が0.88kgでした。これはローディングの高用量プロトコルでの数字です。1日3〜5gだけならもっと緩やかになるはずですが、これは飽和の速さから考えた推論であって、低用量で体重を追った研究があるわけではありません。
女性は事情が違います。30人の女性を2群に分け、半数が1日20gを5日間飲んだランダム化試験では、体重の変化は観察されませんでした。体液の増加が出たのも黄体期だけです。
証拠の詳細:体重増の数字が研究ごとに違う理由と、やめてから戻るまでの期間
体重増の数字がばらつく一因は、測り方です。男性13人・女性14人(約半数はプラセボ)に体重1kgあたり0.3gを1週間投与した研究では、除脂肪量の増加が 1.2 kg/1.9 kg/1.1 kg と読めました。これは3つの時点の値ではなく3種類の測定機器それぞれの読みなので、平均する意味はありません。同じ研究で体の総水分量は約2%増(40.4 → 41.2 kg)でした。
7日目に0.88kgと報告された研究は、1日21.6gを7日間、12人の男性を対象にしたものです。この論文はDOIが付与されていないため、PubMed ID(16619091)で参照しています。
女性の試験の内訳は、30人を無作為に2群へ分け、クレアチン群15人が1日5gを4回(20g/日)を5日間。体重の群間差は 0.40±0.50 kg、p=0.427 で有意差なし。原文は「女性では体重の変化は観察されなかった」としています。体液の増加(総水分量 +0.83 L、細胞外液 +0.46 L、細胞内液 +0.74 L)が確認されたのは黄体期だけでした。
戻る側のデータもあります。31人を対象にした1996年の研究では、摂取をやめてから約30日で筋肉の総クレアチンがベースラインまで戻りました。増えた分が居座るわけではありません。
体組成計の体脂肪率は、上がります
デサント研究で、クレアチン群の体脂肪率は9.5%から10.6%へ上がっています。インピーダンス法は体内の水分量に左右される測定法なので、水が増えれば数字は動きます。ただし「だから錯覚だ」と言い切ることはできません——同じ研究がMRIで測った大腿部の脂肪面積も、増加傾向を示しているからです(有意差には届かず)。
正直な読み方はこうなります。体組成計の数字は上がる。その全部が脂肪とは限らないが、全部が水とも言い切れていない。数字が動くこと自体を先に想定しておけば、測定のたびに一喜一憂せずに済みます。
証拠の詳細:筋と脂肪の横断面積の全数値と、プラセボ群が逆を向いた話
体脂肪率の測定機器は、体内脂肪計 TANITA TBF-102(インピーダンス法)です。クレアチン群 9.5±0.7 → 10.6±0.7 %、プラセボ群 11.2±1.9 → 11.0±1.8 %。論文の本文表記は「体重および体脂肪率が平均値でそれぞれ 1.5kg、1.1% 有意(P<0.05)に増加した」です。
MRIで測った断面積のほうは、筋肉側がはっきり動いています。クレアチン群の大腿四頭筋 80.6 → 87.3、全筋 158.5 → 166.9、大腿部の全横断面積 214.7 → 228.7 cm²(+6.5%、いずれもP<0.05)。
脂肪面積は 48.6 → 54.3 cm² で、増加傾向にとどまり有意ではありません。一方プラセボ群は逆に 55.1 → 52.8 cm² と有意に減少していました(P<0.05)。研究自身は体脂肪率の上昇を「測定法の錯覚」とは結論していないので、こちらもそう言い切ることはできません。
体重1kg増は、タイムにどれくらい効くのか
先に断っておきます。クレアチンで増えた体重が走りのタイムをどう変えるかを直接測った研究は、ひとつもありません。以下はおもりを背負って走らせた研究からの推定です。
- 70kgの人が1kg増えると、体重が1.43%増えます(算術)。
- 走る時のエネルギー消費は、加えた重さに対してやや正比例を上回る形で増えます。つまり代謝コストは少なくとも1.43%増える計算です(負荷にほぼ正比例で、実際はそれをやや上回ります)。
- エネルギー消費の悪化が、そのままタイムの悪化になるわけではありません。シューズの重さを変えた18人の研究では、代謝が1.11%悪化した時に3000mのタイムは0.78%遅くなりました。この約0.7倍という比率を当てると、タイムは約1%遅くなる計算です。
- 4時間の完走なら約2.4分、3時間なら約1.8分。これが推定値です。
いちばん弱いのは3番目のステップです。シューズの重さは足の先端にあり、体幹に付けた重さより1グラムあたりの代謝コストが大きいことが、2種類の研究の数字を並べると見て取れます。クレアチンの水は筋肉の中、つまり体幹寄りの質量なので、シューズの係数をそのまま当てるのは二重の外挿になります。桁の感覚をつかむための数字であって、あなたのタイムの予測ではありません。
証拠の詳細:換算チェーンの原典と、逆向きの誤りを生む一文
ステップ2の出どころは、市民ランナー10人に秒速3m(1kmあたり約5分33秒のペース)で走らせながら重さを加えた研究です。原文は、正味の代謝率が加えた負荷に対してわずかに正比例を上回って増加した、体重を支えるための力の発生が走行の代謝コストの主たる決定要因である、と書いています。
この論文には、取り違えると逆向きの誤りになる一文があります。吊り具で重量を打ち消した条件では「質量の追加だけでは有意な影響がない」という結果も報告されているのですが、これは重さを支えなくてよい特殊な条件の話です。クレアチンの水は自分で支える質量なので当てはまりません。この一文だけを取ると「クレアチンの増量は走りに影響しない」という反対の結論になってしまいます。
独立した傍証がもう1本あります。6人の被験者の胴体に体重の5%・10%・15%のおもりを付けた1978年の研究では、体重の5%増によって12分間走の距離が平均89m短くなり、トレッドミルの走行時間が35秒短くなりました(この論文もDOIがなく、PubMed ID 723510 で参照しています)。なお89mという数字は、元の距離が示されていないためパーセントに換算することができません。
ステップ3の出どころは、シューズ重量を片足あたり100g増やすと代謝が1.11%悪化し、3000mのタイムが0.78%遅くなったという18人の研究です。0.78 ÷ 1.11 ≒ 0.70 が、本文で使っている換算係数にあたります。これはシューズ由来の係数なので、筋肉の中に溜まった水分に当てはめるのは二重の外挿になります。
反対側には、利得もあります
クレアチンが効くことがはっきりしている領域は、3分未満の運動です。マラソンは3分未満ではありませんが、レースの中には3分未満の場面があります。17人の高いレベルのサッカー選手を対象にした試験では、繰り返す短距離ダッシュのタイムは改善した一方、間欠的な持久力そのものは変わりませんでした。2023年の総説も、クレアチンが効きやすいのはペースを何度も上げ下げする場面とラストスパート——レースの勝負どころになりやすい局面だと書いています。
つまり、フラットなペースで押し切るレースなら体重増がそのまま代償になり、起伏や集団の駆け引きでペースが何度も変わるレースなら差し引きは変わります。同じ総説の言い方では、体重の増加が潜在的な良い効果を相殺しうる。どちらに転ぶかは、走り方とコース次第です。
有酸素能力そのものは、むしろ伸びが小さくなるという報告があります
複数のランダム化試験を統合した2023年のメタ解析は、トレーニングによるVO2maxの伸びが、クレアチンを摂った群のほうが小さかったと報告しています。「VO2maxが下がる」ではなく「伸びが小さい」——ここは読み違えやすいところです。VO2maxは体重1kgあたりで表す指標なので体重が増えれば数字が下がる、という説明はもっともらしいのですが、この解析はどちらの表し方で計算したかを書いていないため、そう決めつけることはできません。
ただし公平を期すと、この論文の結論文そのものは「VO2maxへの負の効果(a negative effect on VO2max)」という強い言い方をしています。結果の記述(両群とも伸びたが、クレアチン側の伸びが小さかった)と、結論の言葉づかいには温度差があります。どちらか一方だけを引くと印象が変わってしまうので、両方そのまま置いておきます。
証拠の詳細:利得側3本とVO2max側1本の、研究の内訳
3分未満という境界線は、60件の研究(介入群646人・対照群651人)を統合した2015年のメタ解析によるものです。原文は、下肢の筋力パフォーマンスにおいて3分未満の持続時間の運動で有効であり、それは対象集団・トレーニングプロトコル・用量・期間によらない、としています。この「3分未満」という限定は、クレアチンが効く範囲を測る物差しそのものなので外せません。
繰り返すダッシュの試験は17人の高いレベルのサッカー選手を対象にしたランダム化比較試験です。原文は、繰り返しスプリントのパフォーマンスに好影響を与えた一方、間欠的な持久力は影響を受けなかったとしています。5m スプリントは 0.95±0.03 対 0.97±0.02 秒で有意(P<0.05)でしたが、15m は p=0.07 で有意差に届いていません。つまり「15mも速くなった」とは書けません。
ラストスパートの話は2023年の総説です。原文は、クレアチンは体重を増やし、それが潜在的な良い効果を相殺しうる(とくに体重を支える種目で)としたうえで、タイムトライアルの結果はまちまちだが、強度の上げ下げを繰り返す場面やラストスパートを改善するのにはより有効に見える、それはしばしばレースを決定づける瞬間である、と書いています。
VO2maxのメタ解析は19件のランダム化試験・424人(82%が男性、平均30歳)を統合したものです。原文は、VO2maxは両群とも増加したが、クレアチン側のほうが増加が小さかった(効果量 -0.32、95%信頼区間 -0.51〜-0.12、p=0.002)としています。差の大きさとしては小さい部類です。要旨は体重あたりで表したのか絶対量なのかを書いていないため、「体重が増えて分母が大きくなったせいだ」という説明は推測の域を出ません。上の1978年の研究が、外から加えた重さは体重あたりのVO2maxを下げる一方で絶対量や除脂肪体重あたりの値は系統的には変えない、と報告していることは独立した材料になりますが、同じ原因だと断定することはできません。
カーボローディングと組み合わせた時、筋グリコーゲンが多く入ったという報告があります
同じ12人が、クレアチンなしとありで標準的なカーボローディングを1回ずつ行った研究では、クレアチンありの回の筋グリコーゲンが有意に高くなりました(乾燥重量1kgあたり597 → 694 mmol、P<0.05)。ただし測っているのは筋グリコーゲンの量であって、レースの成績ではありません。そしてなぜそうなるのかも決着していません——細胞が水を含んで膨らむからだという仮説がありますが、別の研究チームは自分たちのデータからその仮説を明確に否定し、別の仕組みがあるはずだと結論しています。糖質側の設計はカーボローディング計算機で組めます。
証拠の詳細:2回のカーボローディングは順序が固定という設計上の弱点
この研究の設計には、押さえておくべき弱点があります。同じ12人が2回のカーボローディングを行うのですが、1回目が必ずクレアチンなし、2回目が必ずクレアチンありという順序で固定されていて、順序を入れ替えた検証は行われていません。つまり2回目に増えた分のうち、どこまでがクレアチンの効果で、どこからが順序そのもの(トレーニングへの慣れなど)によるものかを、このデータだけでは切り分けられません。
もう一方の研究(14人、1日20g)は、クレアチン群の筋グリコーゲンが摂取1日後の時点でプラセボより明らかに高くなり、その後も維持された、運動後24時間の回復期にとくにそうだった、と報告しています。ただしこちらはパーセンテージを示していません。そして結論文は、細胞体積による説明を自分たちのデータで否定したうえで「別の仕組みが原因であるはずだ」と締めています。2本の原文が仕組みについて互いに食い違っているので、「クレアチンの水が糖を引き込む」という説明を確定した話として書くことはできません。
レース後の筋肉痛や回復には、期待できません
ここは証拠が割れています。13件の研究(278人)を統合した2021年のメタ解析は、運動で傷めた筋肉の回復をクレアチンは早めない、と結論しました。一方で23件を統合した2022年のメタ解析は逆説的な効果——短期的には筋損傷を抑えるように見えるが、長期のトレーニング反応ではその傾向が逆転する——と報告しています。
そのうえ、下り坂ランニングをはじめ、走ることに特化した回復研究はひとつもありません。回復を目的にサプリを探しているなら、クレアチンはその用途で選ぶものではない、というのが正直な答えです。回復側で検討されている別系統の成分はタルトチェリージュースのガイドにまとめています。
証拠の詳細:対立する2つのメタ解析と、走る人向けデータの空白
2021年のメタ解析は13件の研究・278人が対象です。原文は、5つの追跡時点のいずれにおいても、筋力・筋肉痛・関節可動域・炎症のどれも変化させなかった、としています。唯一動いたのが運動48時間後のクレアチンキナーゼ(筋損傷の指標に使われる酵素)で、これは有意に低下しました(SMD -1.06)。それでも結論は、運動誘発性の筋損傷からの回復を早めるものではない、です。
2022年のメタ解析は23件が対象で、原文は「逆説的な効果」という言い方をしています。急性のトレーニング反応としては運動誘発性の筋損傷を最小化するように見えるが、慢性のトレーニング反応としてはこの傾向が逆転する、と。2本ともレベルの高いメタ解析で、結論が同じ方向を向いていません。片方だけを引いて「効く」あるいは「効かない」と書くのは、どちらも原文の歪曲になります。
この領域でいちばん大きな穴は、下り坂ランニングを含め、走ることに特化したクレアチンの回復研究が存在しないことです。上の2本が扱っているのは主に筋力トレーニングなどで起きる筋損傷であって、42kmを走った後の脚ではありません。
ランナーには、ローディングを飛ばす理由があります
日本語圏では、ローディングの要否がまだ決着していません。「ローディングをして初めて効果を実感できた」という実感派と、「適切な量(2〜3g程度)を摂っていれば飽和する」という理論派が、同じ質問の下に並んでいます。判断のよりどころが学会の声明ではなく国内の個人的な権威になっている、というのがこの議論の特徴です。
この論争には、31人を対象にした1996年の研究がすでに答えを出しています。1日20gを6日間で、筋肉の総クレアチンは約20%増える。1日3gを28日間続けても、より緩やかに、同じ約20%に達する。
到達点が同じなら、ランナーにとっての違いはプロセスだけです。そしてローディング期は、いちばん体重が増えるフェーズにあたります。デサント研究の+1.5kgも、1日20gのローディング期を含むプロトコル全体での数字でした。
生活の側の理由もあります。日本語のQ&Aで繰り返し見かけるのは、効果の話ではなく生活の話です。「1日4回も飲めない」「250g買ったばかりなのに、ローディングで半分減ってしまう」。実際、1日20gを6日間で120g——250gの容器のほぼ半分が最初の1週間で消えます。飲み切れずにやめてしまえば、効果はゼロです。
証拠の詳細:ローディング論争に答えを出した31人の研究と、その結論文の慎重さ
この研究は男性31人が対象です。原文は、1日20gを6日間摂取した後に筋肉の総クレアチン濃度が約20%増加し、1日3gで28日間かけて摂取した場合にも、より緩やかではあるが同様の20%の増加が見られた、としています。
結論文の書き方には注意してください。原文は「1日3gの摂取は、長期的にはこの高用量と同じくらい組織のレベルを上げる可能性が高い」という表現です。言い切ってはおらず、この留保付きの言い方をそのまま受け取るのが正確です。
用量の背景として、国際スポーツ栄養学会の2017年の立場声明は「1日3〜5g」という維持量と、「1日最大30gを5年間」という長期使用の記述を含んでいます。本文で1日3〜5gとしているのはこの範囲に沿ったものです。
なお「低用量なら体重の増え方が緩やか」という部分には、直接それを測った研究がありません。飽和までの速度が違うことからの推論であって、論文が示した数字ではない、というのが正直な位置づけです。
飲むタイミング、水分、コーヒーと緑茶
ランニングの前か後かは、大きな問題ではありません
クレアチンは、飲んだその日に効くサプリではありません。筋肉の貯蔵量を数週間かけて上げ、上がった状態を維持するものです。だから「走る前か後か」より「毎日飲み続けているか」のほうが、桁違いに効きます。飲み忘れない時間帯に固定するのが、いちばん実用的な答えです。
効き方の中身をひとつだけ。9人を対象にした試験では、クレアチンによるトルクの上乗せが最もはっきり出たのは2分間の休憩を挟んだ直後でした。インターバル走のリカバリー明けが、これに近い場面です。
喉が渇く、水はどれくらい飲むか
クレアチンが筋肉に入る時に水も引き込まれるため、喉の渇きを感じる人がいます。心配されるのは脱水と熱中症ですが、10件の研究をまとめた系統的レビューの結論は、推奨量の範囲では、体が熱を逃がす能力を妨げる証拠も、体液バランスに悪影響を与える証拠もない、というものです。
ここで注意したいのは、この証拠が示しているのは「リスクが増えない」までであって、「水を蓄えるから暑さに強くなる」ではないことです。後者を書いている記事を見かけますが、裏づけになる研究は見当たりません。普段どおりの補給で足ります——量の目安は水分補給計算機で出せます。
コーヒーや緑茶と一緒でも大丈夫か
「カフェインはクレアチンの効果を損なう」という話の出どころは、1996年の9人の研究です。高用量のクレアチンとカフェインを併用した条件で、クレアチンの効果が消えたと報告されました。ただしその後の証拠は乏しく、仕組みも分かっていません。毎日の緑茶やコーヒーをやめる根拠としては弱い、というのが現状です。
証拠の詳細:暑熱・水分・カフェインの、研究の内訳
暑熱と体液バランス:10件の研究を統合した2009年の系統的レビューの結論は、クレアチン摂取が体の熱放散能力を妨げる、あるいは選手の体液バランスに悪影響を与えるという考えを支持する証拠はない、というものです。ただしこの結論には「推奨量では」という限定が明示的に付いています。用量を守る前提の話だ、という点は落とせません。
個別の試験としては、33.5℃の環境であらかじめ2%脱水させたうえで80分間運動させたものがあります(12人の男性、1日21.6gを7日間。この論文はDOIがなくPubMed ID 16619091 で参照)。原文は、暑熱下で運動する脱水状態の鍛錬男性において、症状の発生を増やすことも、水分状態や体温調節を損なうこともなかった、としています。
逆向きの主張について:「水を蓄えるから体温調節に有利」「けいれんを防ぐ」という正の効能を書いた記事がありますが、上の証拠が支持しているのは「リスクを増やさない」という方向だけです。正の効能を裏づける研究は見当たりませんでした。
2分間の休憩の試験は9人が対象です。筋肉のホスホクレアチン濃度は4〜6%の増加でしたが、動的トルクの産生は10〜23%増加し(P<0.05)、その効果は運動セット間の2分間の休憩の直後に最も顕著でした。
カフェイン:同じ1996年の研究の別条件で、高用量のクレアチン(体重1kgあたり0.5g/日)とカフェイン(同5mg/kg/日)を併用したところ、この作業能力向上効果はカフェイン摂取によって完全に打ち消された、と報告されています。ただし2015年の総説は、研究は乏しいもののカフェイン摂取がクレアチンの効果を鈍らせる可能性が示唆されている、一方で薬物動態上の相互作用は考えにくい、と整理しています。つまり現状は「1996年の9人の研究で観察された、その後の証拠は乏しい、仕組みは不明」までで、「カフェインはクレアチンを打ち消す」という定説ではありません。
パウダーとタブレット、ランナーはどちらを選ぶか
中身はどちらもクレアチンモノハイドレートなので、選ぶ基準は成分ではなく生活動線です。ランナーの場合、差が出るのは遠征と合宿です。
- パウダー:量を自分で決められる。3gにも5gにも刻めます。かわりに計量器具と、溶かすための水と時間が要ります。
- タブレット:計量も溶かす手間も要らない。粒数がそのまま用量なので、前泊先の洗面所でも狂いません。ただし1回分が何粒かは製品ごとに違うので、そこだけ確認してください。
- パウダーを持ち出すなら、家で小分けにしておく。1回分ずつ小袋に分けておけば、遠征先に計量器具を持っていく必要がありません。
プロテインに「クレアチン配合」と書いてある場合
見るのは「配合」の二文字ではなく、1回分に何グラム入っているかです。3〜5gという目安に届いていなければ、配合されていても足りていません。表示に1回分あたりのグラム数がなければ、自分が何グラム摂っているかを検証すること自体ができません。タンパク質側の必要量はタンパク質計算ツールで先に決めて、クレアチンは別に足すほうが、管理はずっと簡単です。
腎臓と、健康診断のクレアチニン値
結論から。健康な人を対象にした研究では、血清クレアチニンはわずかに上がり、腎機能の指標(eGFR)は変わりません。19件のランダム化試験を統合した2026年の解析で、血清クレアチニンの上昇は+0.13 mg/dL。10ヶ月から5年使い続けた人を調べた研究も、健康な人の腎臓に有害な影響は認められないとしています。
そのうえで、限界を2つ正直に書きます。ここでの結論はすべて健康な人に限られます。そして腎機能を指標にした1年超のランダム化試験は、まだ行われていません——2026年の解析自身が、それが必要だと書いています。
最後に、日本語圏で今も流れている話をひとつ。「フランスではクレアチンの販売が禁止されている」——出どころは、2001年にフランスの食品衛生安全庁(AFSSA)が「長期使用の発がんリスクが十分に評価されていない」として出した否定的な見解です。ただしこの主張は、欧州委員会から科学的根拠に欠けると判断されています。禁止はその後解除され、現在は普通に流通しています。クレアチンそのものの毒性が示された話ではありません——腎臓の心配は、上の数字のほうで判断してください。
証拠の詳細:腎機能の数値内訳と、まだ埋まっていない穴
19件のランダム化試験を統合した2026年のメタ解析では、血清クレアチニンの平均差が +0.13 mg/dL(95%信頼区間 0.07〜0.18)。一方で尿素とeGFRには群間差がありませんでした。同じ論文が、腎機能を終点にした1年を超える長期のランダム化試験がさらに必要だ、と明記しています。
別のメタ解析(腎臓病専門誌、介入群177人・対照群263人)の結論は、血清クレアチニンの軽度かつ一過性の上昇が見られるが、それは腎障害ではなく代謝の回転による可能性が高い、GFRには有意な変化が観察されず腎機能は保たれていることが示唆される、というものです。「可能性が高い」という断定を避けた表現は原文どおりで、言い切ってはいません。
長期使用者のデータは1999年の研究です。10ヶ月から5年にわたって使用してきた人を調べ、短期・中期・長期のいずれの経口クレアチン摂取も、健康な人の腎臓に有害な影響を及ぼさない、と報告しています。
ここで、「1年を超えるランダム化試験がそもそも存在しない」わけではないことも書いておきます。2015年に発表された大規模試験は、1741人を対象に1日10gのクレアチンを最低5年(最長8年)投与しました。
ただしこの試験を、そのままクレアチンの安全性の証明として引くことはできません。理由は3つあります。被験者は薬物治療を受けている早期パーキンソン病の患者であって健康なランナーではないこと。安全性の評価軸が身体系統ごとの有害事象であって腎機能の生化学指標ではないこと(原文は、身体系統別の有害事象・重篤な有害事象に検出可能な差はなかった、としています)。そして試験自体が有効性を見込めないとして途中で打ち切られ、追跡期間の中央値は4年だったことです。だから本文では「腎機能を指標にした1年超の試験がまだない」という、限定した言い方をしています。
なお「健康診断の前に医師に伝える」というのは、私たちからの提案です。論文がそう推奨しているわけではありません。血清クレアチニンが腎機能の推定に使われる指標である以上、飲んでいる事実を共有しておくほうが解釈の行き違いを防げる、という実務的な判断です。腎臓に持病がある場合は、ここの結論(健康な人限定)は当てはまりません。
参考文献
- (2023). Creatine supplementation and VO2max: a systematic review and meta-analysis. Critical Reviews in Food Science and Nutrition.
- (2023). Creatine supplementation and endurance performance: surges and sprints to win the race. Journal of the International Society of Sports Nutrition.
- (2015). Creatine Supplementation and Lower Limb Strength Performance: A Systematic Review and Meta-Analyses. Sports Medicine.
- (1996). Muscle creatine loading in men. Journal of Applied Physiology.
- (2026). The effect of creatine supplementation on kidney function: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of Renal Nutrition.