ハイロックス8種目を競技順で解説|規格・目安タイム・ルール
エンジンはウォールボールでは効きません。8種目を競技順で解説——公式規格・目安タイム・ノーレップ規則・各1つの対策。最も怖い3種目も示します。
ポイント
- この記事は実際の競技順(レース順)で並べます。 第1種目スキーエルグから最後のウォールボールまで、各種目の前に1kmの走りが入ります。最も怖い3種目はウォールボール・サンドバッグランジ・スレッドプルです。
- あなたのエンジンは種目ではほぼ効きません。 n=11の初期研究で、有酸素フィットネスと各種目成績の相関はρ=−0.11(p=0.74)=意味のある関連なし。走力とは別に筋力・技術の準備が要ります。
- 本当に走りを壊すのは「短くて楽そうな種目」です。 サンドバッグランジとスレッド系が、次の1kmで使う脚を先に削ります。表で「目安タイム」と「走りへの影響」を分けて見てください。
- 重量はすべて「スレッド含む総重量」です。 スレッドプッシュは最大202kg、プルは最大153kg——プレート単体ではなく台車込み。これを誤解すると当日の体感が狂います。
ハイロックス(HYROX)は、8回の1km走と8種目を交互にこなすフィットネスレースです。この記事は8種目を実際の競技順(レース順)で解説します——第1種目のスキーエルグから最後のウォールボールまで、各種目の前には必ず1kmの走りが入ります。前提として知っておきたいのは、あなたの走力(エンジン)が種目ではほとんど助けにならないこと。Hyroxを扱った初期の小規模研究(Brandt 2025, n=11、レク選手)でも、有酸素フィットネスと各種目成績の相関はρ=−0.11(p=0.74)=統計的に意味のある関連はありませんでした。走れることと、種目で点を取れることは別物です。
各種目で「なぜランナーが沈むか」→「公式規格とノーレップ規則」→「対策ひとつ」を見ていきます。何から鍛えるか先に知りたい人へ——ランナーが最も苦しむ3種目はウォールボール・サンドバッグランジ・スレッドプルです。いずれも筋力・握力・技術が問われ、走り込みでは伸びません。まずは全体像を競技順の表で確認してください。
| 順 | 種目 | 規格 | 目安 | ランナーの泣き所 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | スキーエルグ SkiErg | 1000m | 約4:34 | 突っ込み注意 |
| 2 | スレッドプッシュ Sled Push | 50m | 約3:01 | 新鮮な脚の罠 |
| 3 | スレッドプル Sled Pull | 50m | 約5:10 | 握力・技術 |
| 4 | バーピーブロードジャンプ | 80m | 約5:46 | 心拍が最高 |
| 5 | ロウ Row | 1000m | 約4:55 | 休憩に見える罠 |
| 6 | ファーマーズキャリー | 200m | 約2:14 | 握力が先に終わる |
| 7 | サンドバッグランジ | 100m | 約5:27 | 最後の走りを壊す |
| 8 | ウォールボール | 100回 | 約7:10 | 唯一の回数判定 |
目安タイムは「初参加者の中央値」とされる第三者集計に基づく参考値であり、公式パーセンタイルではありません(部門・サンプル数も非公開)。自分の現在地ではなく「種目間の相対的な重さ」の感覚としてお使いください。全体に共通する事実も押さえておきましょう。
- 8本の1km走と8種目が交互に進み、順番は固定。アマチュアの平均完走は約1.5時間。
- 種目間のロックスゾーン(Roxzone)の移動は計時が止まらず、休憩ではありません。
- スキーエルグとローイングは全組共通でダンパー6(ローはフットプレート4)——Proのマシンが「重い」わけではありません。
- 女子Proの重量は全種目で男子Openと同一。唯一の差はウォールボールの的の高さ(2.70m)だけです。
1. スキーエルグ(第1種目・全員が突っ込む)

しっかり股関節を曲げる
腰の下まで長く引く
ダンパー6(台に乗り1000m)。
スキーエルグは第1種目。脚はまだ新鮮ですが、これは上半身・広背筋主導の種目で、ランナーが普段鍛えていない「引く」筋肉が思ったより早く疲れます。さらに序盤は全員が突っ込み過ぎがちで、最初の1kmと第1種目を飛ばすと、後半に大きく返ってきます。
公式規格:1000m、ダンパー6(全組共通)。規則:規定距離を漕ぎ切るまでマシンを離れられません。
- ヒップヒンジと広背筋ドライブで漕ぐ(力任せにしない)。
- 最初の2区間は意図的に抑えて入る。
- 目安は約4:34(参考値)。
2. スレッドプッシュ(短いが最も残酷)

前腕は垂直でポールに密着
上腕は前方・肘90度
体幹は地面と平行、脚で押す
一方の脚は伸ばし踵を上げる、50m。
50m(4×12.5m)でコース最重量の種目。それが第2種目という早い段階で来ます。脚で押す力はランナーの土台に最も近いので「痛いが速い」一方、新鮮な脚で全力で押すと第3〜8区間の走りすべてを毀損します。短い種目ですが、代償は走りに出ます。床の摩擦は会場で変わり、同じ重量でも体感が違います。
公式負荷(スレッド込みの総重量、プレート単体ではない):Open男 152kg・女子 102kg・Pro男 202kg。各ディビジョンの重量は kg・lb の両方をHYROX 重量早見表で一覧できます。規則:各レングスでスレッドがラインを越えること。引きずり等のフォーム違反は取られます。
- 低い姿勢で歩を止めず、最低限の力で長く押す。
- 全力スプリントにしない。
- 目安は約3:01(参考値)。
ターフでのグリップは技術と同じくらいシューズの仕事だ——硬く低いアウトソールは食いつき、柔らかく背の高いレーシングシューズは滑る。HYROX シューズガイドが、どのシューズが本当にソリに効くかを解説している。
3. スレッドプル(一番「重く感じる」種目)

ロープを手繰る
腕でなく脚と体重で引く
ボックス内に留まり、スレッドはラインを越える。
50m(4×12.5m)、ロープでスレッドを手繰る種目。ランナーが最も「重い」と感じますが、落ちる原因は筋力そのものより握力・前腕・後鎖の出力と、ハンドオーバーハンドの技術+低い姿勢です。どれも走っていては鍛わりません。
公式負荷(スレッド込みの総重量):Open男 103kg・女子 78kg・Pro男 153kg。「台車自体は何kg?」と聞かれるのはこのため——ここを誤解すると重さの予想が狂います。規則:スレッドも人も指定ラインを越えず、足はファウルラインを越えて踏み込めません。
- 後ろ歩きで脚と体重を使って引き、腕力に頼らない。
- ハンドオーバーハンドを低くリズムよく。
- デッドハングや重いキャリーで握力を鍛える。
- 目安は約5:10(参考値)。
4. バーピーブロードジャンプ(遅れてくるダメージ)

胸と腿を床に
両足同時に踏み切り・着地
着地点から跳ぶ、計80m。
80mのバーピー→立ち幅跳び(自重・全組共通)。その場では耐えられても、着地の伸張性(エキセントリック)負荷が「次の1km」を壊すのが罠です。心拍は走るとき以上に跳ね上がり、報われるのは持久力ではなく爆発的なプライオメトリック能力——ランナーが持っていない質です。しかも疲労が遅れて出て、次のランで脚が出なくなります。
公式規格:80m、自重。ノーレップ規則:胸と腿を床につけ、両足同時に踏み切って同時に着地し、着地点から前へ跳ぶ(ラインを少しずつ前にしない)。距離系種目はレングスで数え、数え間違いは時間ロスの定番です。
- ジャンプ距離を欲張らない(距離=速さではない)。
- 小さく効率的に刻み、ステップバックのバーピーで脚を温存する。
- 目安は約5:46(参考値、2番目に長い種目)。
5. ロウ(有酸素に見える罠)

駆動順 脚→背→腕
ダンパー6・フットプレート4
1000mを漕ぎ切る。
1000mのローイング。ここで一気に楽になります——エンジンが効く数少ない種目の一つだからです。ただし有酸素に見えるぶん、序盤に突っ込んで潰れるのが定番ミス。脚で漕ぐため続くランの脚も削り、レース中盤の疲労が積み上がるタイミングに来るのも厳しい点です。漕ぎは脚→背中→腕の順(戻りは逆)で、ストロークレートは技術です。
公式規格:1000m、ダンパー6・フットプレート位置4(全組共通)。規則:1000mを漕ぎ切ること。途中で離れると有効完走になりません。
- タイムトライアルにせず、心拍を抑えた有酸素として使う。
- 脚から力を伝え、心拍ゾーンで「抑える」基準を確認する。
- 目安は約4:55(参考値)。
6. ファーマーズキャリー(最短・握力だけが限界)

高く構えた姿勢
歩く合間に握力を緩める
両手にケトルベルを持ち200m。
200mのキャリーで、8種目で最も走りに近く最短の種目。ランナーにとって唯一の本当の限界は握力だけ——スレッドプルで半分削られた握力が先に終わります。だからここは押す場所ではなく回復する場所です。
公式負荷(片手):Open男 24kg・女子 16kg・Pro男 32kg。規則:200mを運び切る。置いて持ち直しは可(ノーレップではないが時間ロス)、許可ゾーン外で落とすと不利になります。
- デッドハングや重いキャリーで握力持久力を作る。
- 握り締め過ぎず、手を緩めながら一定のリズムで歩く。
- ロウとランジの間の「回復区間」として使う(約2:14)。
7. サンドバッグランジ(次の走りを最も壊す)

毎回後ろ膝を床に
サンドバッグは上背・肩に
100mを歩き切る。
100mの加重ウォーキングランジ。後ろから2番目に来るので、終えれば残りはウォールボールだけ——最も疲れた脚をもう一度削られます。最後の1kmとウォールボールで使うクアッドとグルートを集中的に焼くのが本当の怖さで、走り込みでは鍛わらない純粋な脚の筋持久力です(有酸素との相関はほぼゼロ、ρ=−0.11)。
公式負荷:100m、サンドバッグ Open男 20kg・女子 10kg・Pro男 30kg。ノーレップ規則:各レップで後ろ膝が床にタッチすること。バッグは肩か上背に担ぎ、落としたらやり直しです。
- 本番前から加重ウォーキングランジを積む。
- ランジ→即ラン(ブリック)で、最後の1kmが崩れる感覚に脚を慣らす。
- 崩れる区間はペース計算機で「疲労下の遅いペース」として見積もる。
- 目安は約5:27(参考値)。
8. ウォールボール(最後・最長・唯一の回数判定)

股関節が膝より下=有効(でなければノーレップ)
高所のターゲットへ——男性3.00m・女性2.70m
有効100回。
ウォールボールは最終種目で、ランナーには断トツの最難関です。最長(参考値で約7:10)、8本の走りと7種目の後に来て、体力ではなく疲労下のスクワットの深さと精度を問う技術種目。エンジンはここでは効きません。
動作:球を胸で持ち、股関節が膝より下まで沈んでから立ち上がり、的の高さに当てます。全シングルス組で100回(75回ではありません=旧情報)、有効な反復だけがカウントされます。
公式規格:球 Open男 6kg・女子 4kg・Pro男 9kg、的の高さ 男子3.00m・女子2.70m。ノーレップ規則(逐字):警告は一切なく「レップかノーレップか」のどちらか。深さは股関節が膝より下、球は的に当てること。無効なレップはカウントされず、100回の有効レップを終える前に持ち場を離れると失格(DQ)です(26/27 ルールブックで旧「1回15秒ペナルティ」は廃止)。終わった脚では深さが浅くなり、ノーレップが一気に積み上がります。
- 疲労状態で練習する——ハードな走りの後にフルスクワットを15〜20回×数セット。
- お尻を踵に近づける深さを体に入れ、足首の柔軟性も高める。
- 独立した持久種目として配分する(最長、約7:10)。
- 1セットを横から撮り、ウォールボール深さ判定ツールに通すと、股関節が膝より上で止まったレップを1回ずつ指摘してくれます。
では、初参加は何から準備すべきか
結論はシンプルです。走力は前提として、あなたが落とすのは「未知の脚の領域」と「技術」。優先して鍛えるべきは、ランナーが最も苦しむ3種目——ウォールボール(フルスクワット)、サンドバッグランジ(加重ランジ)、スレッドプル(握力とロープ技術)です。走りの土台はVO2max(最大酸素摂取量)トレーニングで伸ばしつつ、ペース計算機で8×1kmの抑えた入りを決めておきましょう。完走タイム予想と区間配分の見当はハイロックス タイム計算機でつけられます。最後の検証は、一度sim(部分または全程の通し練習)をやってみること。なお8本の走りと8種目はすべて必須で、未完了・スキップやウォールボール100回未満は有効な完走になりません。なぜ走れるのに走りが崩れるのかは、ランナーのためのハイロックス入門で「疲労下で崩れる走り(compromised running)」として解説しています。
全8種目の規格 · 全4部門
各部門の重量とレップ数を一覧に。多くの資料が省くPro女子も収録。数値はHYROX 26/27シングルス・ルールブックから逐語転記。
| 種目 | Open · 女子 | Open · 男子 | Pro · 女子 | Pro · 男子 |
|---|---|---|---|---|
| スキーエルグ 1000 m | — | — | — | — |
| スレッドプッシュ 50 m | 102 kg | 152 kg | 152 kg | 202 kg |
| スレッドプル 50 m | 78 kg | 103 kg | 103 kg | 153 kg |
| バーピーブロードジャンプ 80 m | — | — | — | — |
| ローイング 1000 m | — | — | — | — |
| ファーマーズキャリー 200 m | 2 × 16 kg | 2 × 24 kg | 2 × 24 kg | 2 × 32 kg |
| サンドバッグランジ 100 m | 10 kg | 20 kg | 20 kg | 30 kg |
| ウォールボール 100 回 | 4 kg · 2.70 m | 6 kg · 3.00 m | 6 kg · 2.70 m | 9 kg · 3.00 m |
出典:HYROX 26/27シングルス・ルールブックを逐語転記。Pro女子の重量はOpen男子と同じ。スレッドの重量はソリ本体を含む。ファーマーズキャリーは片手あたり。スキーエルグ・ローイング・バーピーブロードジャンプは全部門共通。ダブルスはシングルスと同じ重量で、回数と距離のみを分担。
参考文献
- (2026). HYROX Singles Rulebook 26/27. hyrox.com.
- (2025). Acute physiological responses and performance determinants in Hyrox. Frontiers in Physiology.
- (2013). The Effects of Combined Strength and Endurance Training on Running Performance the Following Day. International Journal of Sport and Health Science.
- (2014). Strength training prior to endurance exercise: impact on the neuromuscular system, endurance performance and cardiorespiratory responses. Journal of Human Kinetics.